☆究極のどこでも通信を可能とするニュートリノ?!☆
2 ニュートリノによる夢の通信に向けて
さて、前述のとおり、日本の匠技術の集大成で、ニュートリノを検出するための光電子増倍管が完成しました。
ここで参考のため、通信技術の現状について、情報を重畳する媒体に着目して、下表のように整理してみました。この中で、現実の世界は「電波による空間通信」と「光による有線通信」が主流となっています。
ここに「ニュートリノ」が加わったらどうなるのでしょう!?
(表) 通信技術の現状
(1) ニュートリノ?ミューオン?宇宙線?
改めて、ニュートリノって、一体何なのでしょう。
ニュートリノの記憶を呼び起こしてみると、テレビや新聞では、
・カミオカンデでニュートリノを初めて検出
・ニュートリノの研究で、小柴先生と梶田先生がノーベル賞を受賞
・ニュートリノは、地球をとおり抜ける素粒子
などといった報道がありました。不思議な物体です。
では、ミューオンとは何なのでしょう。
ピラミッドや火山、福島の原発設備などを透視して、レントゲン写真のように内部構造を写し出したという報道がありました。これには岩石やコンクリートを通過するミューオンという素粒子が利用されています。ミューオンを分解するとニュートリノも出てくるそうです。
宇宙線というものも話題になっています。
地球上には、宇宙から様々な宇宙線が到来しています。宇宙線とは、宇宙空間を飛び交っている極めて小さな粒子のことです。その90%は、陽子1個の水素原子核、9%は陽子2個+中性子2個のヘリウム原子核、残る1%がヘリウム原子核より重い原子核など、とのことです。
これらの粒子は大変高いエネルギーを持っており、近年、集積回路に障害を与えるということで問題にもなっています。国際電気通信連合(ITU)においても懸案として取り上げられています。
真空管やトランジスタといった可視的規模の素子・回路では無視できましたが、小さなチップ上に加工された極めて微細な集積回路は、宇宙線の持つエネルギーによって大きな影響を受けるようです。もちろん、宇宙線は半導体だけでなく、人体にも影響があります。国際線乗務員の被ばくも問題になっていますね。
実は、この宇宙線の中にはニュートリノも含まれているのです。
以上のように、ニュートリノ、ミューオン、宇宙線など似たようなものが沢山ありますが、今回は、この中で素粒子の一つであるニュートリノに着目しました。
(2) ニュートリノは素粒子の一つ
まずはじめに物質を構成する最小の単位である「素粒子」についてです。
学生の頃学んだかすかな記憶では、物質の最小単位は、原子でした。
100種類以上ある原子のうち、一番小さな原子は、水素原子。水素は周期表の一番最初に出てきますね。原子記号は、Hです。
この水素原子の構造は、核(陽子1個)の周りを電子1個がグルグル回っている、という構造でした。まるで、太陽(陽子)が中心にデンとあって、その周りを惑星(電子)が高速でクルクル回っているかのようなイメージです。
この陽子と電子はそれぞれプラスとマイナスの電荷をもって引っ張り合っています。また、両者の重さを比べると陽子が断然重い(電子の約1,800倍)・・・ここまでは、何となく記憶にあります。
(図1) 水素原子のイメージ
ところが、専門家の皆さんの研究で、この陽子は、更に複数の素粒子から構成されているということが分かってきました。ちなみに、電子はこれ以上細かくできない素粒子です。
陽子を分解すると・・・クオークやらレプトン、ゲージ粒子というような素粒子からできているらしい・・・この辺りになると非常に難しいので、これ以上は追求しないことにします。
今回のユニーク技術では、いろいろな種類のある素粒子のうちニュートリノに焦点を当てて話しを進めています。
なお、先ほど出てきたミューオンという素粒子は、電子とニュートリノ2つ(ミューニュートリノと反電子ニュートリノ)で構成されています。従って電子より多少大きめの素粒子と言えるようです。もっとも、ニュートリノの質量は、電子の100万分の1以下?らしいです。何故これほど小さいのか・・・というのはまだ解明されていないようです。
これら素粒子は、その持っているエネルギー量、質量、電荷などにより、物質(岩石など)の透過度が違ってきます。例えば、同じニュートリノでも、高エネルギーニュートリノと低エネルギーニュートリノとでは、物質の透過度に大いに違いがあるようです。
そもそも何故ニュートリノは物質を通り抜けることができるのでしょうか。それは名前からも分かるように電荷がないこと、そして極めて小さいことが理由のようです。ニュートリノから見ると、岩でも人体でも隙間だらけの物質に見えるのですね。
とにかく、物質を透過してしまうニュートリノを何とか効率よく検出できるようになれば、今までにない新しい通信技術が誕生するかも知れないのです。
実は、何でも通過するものに「重力波」もあります。これを利用した通信も考えられますが、まだまだ未知の部分が多く、やっと検出例が出てきたような状況ですので、今回は触れないことにします。
(3) ニュートリノ発見の歴史
ではここで、ニュートリノの歴史を確認してみたいと思います。
ニュートリノは実際には自分の周りに1秒間に何兆個も飛び交っているそうです。ただ、人体も通り抜けて行くため気がつかないだけ、とのことです。
このニュートリノが物質と反応する確率はエネルギーレベルが高くなるほど比例的に大きくなるそうです。でも、どんなにエネルギーレベルが高くなっても人体では気がつかないのでしょうね。
ニュートリノ発見の歴史を見ると、次のとおりです。
・1930年 ニュートリノ存在の仮説を発表(パウリ博士:オーストリア)
・1934年 物質中で粒子が光の速度より早く移動すると発光する現象を発見(チェレンコフ博士:ソ連)≪カミオカンデのニュートリノ検出原理≫
・1956年 原子炉からのニュートリノを初めて観測(ライネス博士:アメリカ)
・1987年 自然に発生したニュートリノを初めて観測(小柴博士:日本)
・1998年 ニュートリノの振動から質量があることを初めて確認(梶田博士:日本)
小柴博士は、超新星爆発による自然のニュートリノを世界で初めて観測しました。そしてこの観測に使われたのがカミオカンデでした。
ニュートリノの検出方法にはいろいろな手法がありますが、カミオカンデは、水チェレンコフ光検出法が使われています。
(4) ニュートリノ通信を実現するためには
ニュートリノ通信には、どのような装置が必要でしょうか。電波による無線通信用と対比しながら考えてみたいと思います。
① 送信装置(ニュートリノを発生・制御・送出する装置)+アンテナ
② 受信装置(送信装置から送出されたニュートリノを受信・検知する装置)+アンテナ
まず、ニュートリノ用の送信装置を考えてみます。
現在のニュートリノ発生源の主なものは、宇宙で言えば、超新星や太陽があります。人工的なものとしては、加速器があります。また、原子炉からも発生しています。これらの発生源から出たニュートリノを集め、強度などを制御(変調機能)し、更に発射方向を制御(これがアンテナの役目)できれば、送信装置ができそうです。
では、受信装置はどうでしょうか。
カミオカンデやスーパーカミオカンデは、ニュートリノを受信(検知)する装置です。この装置がもっと小型化できれば実用化の可能性が出てきますね。
ちなみに、カミオカンデを地下深くに設置する理由は、宇宙からのニュートリノ以外の雑音(この場合ミューオンやガンマ線)が厚い岩盤を通過する間にほとんど吸収されてしまうからです。地中深く設置しても、ニュートリノはそんな岩盤をものともせず通過してくるのです。でも、こんなニュートリノをどうやって検出しているのでしょうか。
(5) カミオカンデの原理
カミオカンデは、直径約15メートルの円筒形の岩窟の中に純水を満たし、その円筒の壁に1,000個あまりの光電子増倍管を配置したものです。
また、現在稼働中のスーパーカミオカンデは、直径約40メートルの円筒の中に、約1万個以上の光電子増倍管が配置され、更に高感度になっています。
動作原理は、純水の中に突入したニュートリノが水の原子と衝突し、この際発生するチェレンコフ光を光電子増倍管で検出するものです。
写真21 スーパーカミオカンデの内部
もう少し細かく言えば、水槽の周囲から、ニュートリノが入ってきたとき、たまたま水分子の原子にぶつかると、その原子は加速されます。この衝突された原子の速度が光の速度以上(水中での話しです)になるとチェレンコフ発光(390nm紫外線付近)します。この発光を水槽の周辺に設置した光電子増倍管で検出することで、ニュートリノの存在や進入方向が分かるのです。
それにしても大規模な装置です。このくらい大きくしないと検出率が高くならないのですね。将来、この装置を大幅に小型化し、より高感度でニュートリノ検出ができるようになれば、受信装置として利用できそうです。
なお、ニュートリノ検出装置には、カミオカンデの他、アイスキューブという設備もあります。こちらは、南極の分厚い氷の中を通過するニュートリノを検出します。観測原理はカミオカンデと同じで、水の代わりとして氷を利用しています。氷に深い穴を空けて一定の間隔に光電子増倍管を多数設置し、これでニュートリノによるチェレンコフ発光を検出するものです。
どちらの装置にしろ、光電子増倍管による光検出により成り立っています。
(6)光電子増倍管の原理
ここで光電子増倍管の原理を確認しておきたいと思います。
光電子増倍管(真空管)の入射窓に光が入ると、光電面から電子が放出されます。この電子がダイノードで反射されると二次電子が放出されます。更にこの電子が電場で加速され、次のダイノードに衝突、更に放出電子が増えるという「電子なだれ現象」が生じ、結果として極微量の入射光を検知することができるのです。
カミオカンデ用の20インチ光電子増倍管は、一般的な光電子増倍管と比べ、広立体角受光面を持ち、増倍率1,000万倍以上、耐圧力4気圧以上、水中動作可能という世界に類を見ない性能を有しているとのこと。日本の技術は凄いですね。
(図2) 光電子増倍管断面図(浜松ホトニクスHPから)
(7) 夢のニュートリノ通信
将来、ニュートリノの送・受信装置が実現できたなら、
・ 地球の裏側の衛星とも、ダイレクトに信号のやりとりができる(地球上に1カ所通信所を設けるだけで地球を周回する衛星の管理・運用が可)
・ 宇宙船が月や惑星の裏側に入ったときにも通信ができる
・ 原子炉や原子力潜水艦などの位置や稼働状況、更に核実験を検出するレーダができる
・ 他の素粒子などと組み合わせ、その物質透過度の違いを活用することにより、地球規模のレントゲン装置(資源探査等)ができる
こんなことができそうです。
以上、大きな夢を抱きながら、今回のユニーク技術のご紹介とさせて頂きます。ありがとうございました。
一般財団法人日本ITU協会 横田
(注1) ガラスとグラスの言葉の使い分け
原料についてはガラス、それを製品化したものについてはグラスと表現
(注2) 写真及び動画
一般財団法人日本ITU協会 後藤(撮影)
(注3) その他の写真、図等
それぞれの写真等の下部に注記したHPから引用したもの又は無償素材を利用
(注4) 参考HP等
1 日本無線硝子株式会社(パワーポイント資料及びHP)
2 浜松ホトニクス株式会社
3 スーパーカミオカンデ
http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/sk/index.html
4 ハイパーカミオカンデ
5 日本学術会議
6 東京大学
http://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/
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