<ユニーク技術(7)>
1 電気について考える
(1) 電気とは何か
電気とはどのように定義されているのでしょうか。
デジタル大辞泉では、電気を次表のとおり定義しています(コトバンクWebから引用)。 大変広い概念です。
電気とは、 ① 摩擦電気・放電・電流などの現象。また、その主体である電荷や電気エネルギー。 ② 電灯のこと。「電気を消す」「電気をつける」 ③ 電力のこと。「電気を引く」「電気料金」 |
[補説] はじめオランダ語からの「エレキテル」「エレキ」が用いられたが、中国から英語を漢訳した語「電気」が輸入され、明治中期には一般化した。 |
補説にあるように、日本では、初期の頃、オランダ語を日本語で表音化した「エレキテル」や「エレキ」という言葉が一般的に使われていたようです。それが表語文字である「電気」という漢字が中国から輸入され、この「電気」という言葉が一般化していったのですね。
(2) 人類が電気を使えるようになる
摩擦電気や放電(雷など)による様々な現象は、太古からその存在は知られていました。しかし、人間には制御できない自然現象でした。
ところが、1663年ゲーリケによって静電気を利用した摩擦起電機が発明され、人類が初めて電気を自由に使えるようになったのです。
我が国では、1776年、摩擦起電機であるエレキテルを複製し、世に知らしめた平賀源内が有名です。
もっとも、この頃の電気(エレキテル)は、放電や電気ショックによって見世物や医療機器として使われていたようです。衣類が静電気を帯びてバチッと放電したり、手がビリッと痺れたりする現象の延長線ですね。
(3) ボルタ電池が発明される〜化学電池の登場
前述のエレキテルの静電気方式と異なる電気の発生源として、「ボルタ電池」が登場しました。この電池は、化学電池の一種で、電池内部の物質の化学反応を電気エネルギーとして取り出すものです。伊のアレッサドロ・ボルタが発明(1800年)しました。
ボルタ電池の発明は、電気の歴史の中の大きな転換点です。これ以降、鉛蓄電池、乾電池、ニッカド電池、リチウムイオン電池など次々に新しい化学電池が開発されて行くことになります。
乾電池の発明は、1887年(明治20年)、日本人の屋井先蔵とのことです。
また、現在主流となっているリチウムイオン電池は1985年に発明(日:吉野彰など)され、1991年にソニーが世界に先駆けて商品化したとのことです。
電池の開発の歴史には、多くの日本人の活躍が見られますね。
(4) ゼーベック効果が発見される〜物理電池の登場
同じ電池でも、化学電池と原理の異なる物理電池が開発されました。
物理電池は、化学反応を伴わず、物理現象を利用して熱や光などの物理エネルギーを直接電気エネルギーに変換したり、蓄電したりする電池のことです。
1821年、ゼーベック(英)が、二種類の金属の接合部に温度差を与えると、そこに電圧が発生する現象を発見しました。これがゼーベック効果と呼ばれています。物理電池の原型ですね。逆に電圧をかけると温度差が生じる現象を見つけたのがペルチェ(英)、1834年のことです。
現在、半導体材料を使ったペルチェ素子が有名です。熱を利用して発電したり、逆に電気を流して冷却用に利用したりするなど、様々な用途に用いられています。
≪ペルチェ素子≫
他の物理電池としては、1839年にベクレル(仏)が太陽電池を発明しました。今は、クリーンエネルギーのホープとして大活躍しています。
≪太陽電池パネル≫
また、1879年に、ヘルムホルツ(独)が電気二重層(電解液と電極の境界面にプラスとマイナスの電荷が蓄えられる現象)モデルを提唱しました。それからおよそ100年後の1970年代、大容量の電気二重層キャパシタ(コンデンサ)を世界に先駆けて実用化したのは日本メーカでした。
今、このキャパシタが、電気自動車のメイン電源にも利用できるのではないかと、大きな注目を集めています。
≪電気二重層キャパシタ≫
(5) 電磁誘導式の発電機が発明される
1832年、ピクシ-(仏)によって、ダイナモが発明されました。電磁誘導の原理を利用した初めての産業用発電機です。
この発明から電磁誘導式の発電機や電動機(モーター)が大きく発展していきます。この発電機は、電池とは桁違いに大きな電力を生み出すことができ、商用電源として利用されるようになりました。
(6) 年表にしてみる
電気の歴史を簡単にまとめたものが下表です。
(7) 電源の種類には何がある
電気の供給源を電源と呼んでいます。自然界からの電源(例えば雷や静電気)を除けば、現在、私たちが使える電源は、一般的にはこの二つです。
① 商用電源 (電灯線につながるコンセントから供給される) |
商用電源は、電力会社と契約すれば、国内ではいつでもどこでも使うことができる。そして、現実には供給される商用電源のほとんどは、1の(5)で記述した発電機によって作られる。 今や、商用電源は人々の生活に欠かすことのできないライフラインになっている。 |
② 電池 |
電池は世界中いつでもどこでも利用できる。持ち運び可能なことから、車や懐中電灯など動くものに搭載できる。 こちらも生活に欠かすことのできない電源である。 ただし、前述の商用電源に比べると、パワーはずっと小さくなる。 |
【参考】 商用電源の発電設備 〇 発電機を使うもの →火力発電(燃料:石油、石炭、天然ガス、水素・・・) →原子力発電(燃料:ウラン・・・) →水力発電(水の位置エネルギー・・・) →その他(太陽熱、風力、潮力、地熱、バイオマス・・・) 〇 発電機を使わないもの →太陽光発電(物理電池) |
(8) 電池の種類とトレンド
A 電池の種類
電池には、いろいろな種類のものがあります。大きく分けると、化学電池と物理電池に分類することができます。これを更に細かく分類したものが下表です。 (Wikipediaを参考)
電
池 |
化学電池 |
一次電池 |
マンガン電池、ニッケル電池、水銀電池、リチウム電池など |
二次電池 |
鉛蓄電池、リチウムイオン電池、ニッケル・カドニウム電池など |
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燃料電池 |
水素、メタノール、エタノール、アンモニアなどを燃料とする電池 |
||
生物電池※1 |
生物活動の結果得られる化学エネルギーを利用した電池。バイオ電池。 |
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物理電池 |
太陽電池 |
シリコン型太陽電池、有機薄膜太陽電池、ペロブスカイト太陽電池など (光エネルギーを直接電気エネルギーに変換する電池) |
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熱電池 |
スピンゼーベック素子、ペルチェ素子など熱電変換素子を利用した電池 (熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換する電池) |
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原子力電池 |
ラジオアイソトープ電池など (放射線エネルギーを電気エネルギーに変換する電池。ただし、放射線エネルギーを熱エネルギーや光エネルギーに一度変換してから利用するタイプが多い) |
||
電気二重層キャパシタ※2 |
正極と負極の両電極表面で起こる電気二重層という物理現象を利用した蓄電池。スーパーキャパシタ、ウルトラキャパシタなどとも呼ばれる。 |
※1 生物電池は、燃料電池に分類されることもある。
※2 電気二重層キャパシタは、蓄電タイプであり二次電池に類似。
B 電池の市場規模
我が国では、どのような電池が、どのくらい生産されているのか、電池工業会HPの機械統計を調べてみました。
電池販売金額は、2008年まで順調な延びを示していましたが、リーマンショックによる円高の影響等を受けて2009年には大きく減少しています。
その後、徐々に回復していきますが、中でもリチウムイオン電池の伸びが目立っています(オレンジ色の金額は、リチウムイオン電池の再掲)。
なお、上図の最新データ(2016年)の電池販売金額の内訳は、総額7,738億円のうち、一次電池が8%、二次電池が92%(二次電池の内訳:リチウムイオン電池49%、ニッケル水素電池21%、鉛蓄電池21%、その他1%)となっています。
※ 一般社団法人電池工業会 (http://www.baj.or.jp/)
2 「電気通信」について考える
(1) 通信とは何か
通信とは、「郵便や電話、スマホ、パソコンなどを利用して行う情報伝達」と言えます。大きく分けると、物理的に情報を伝達する方法と、電気を利用して情報を伝達する方法の2通りです。
「通信」に関する解説例を下表に示します。
Wikipedia |
・通信(つうしん)とは、情報の伝達を意味する言葉である。 (語源) ・漢字起源の「通信」:通い合って(通じて)信頼を深める(信(よしみ)を通わす) ・フランス語:communication = ラテン語:communis(共通の)+ munitare(舗装する、通行可能にする) |
三省堂大辞林 |
通信とは、 ① 意思や様子などを他人に伝えること。音信を通じること。信書をやりとりすること。たより。 ② 郵便・電信・電話・信号・パソコンなどを使って意思や情報を伝達すること。 |
IT用語辞典バイナリ |
通信とは、送り手が情報を送り、また受け手が情報を受けることである。特に電気的な手段を用いて行われる場合(電気通信)を指す場合が多い。 |
郵便や電話のない時代、人間の聴覚(太鼓・鐘の音など)や視覚(のろし・手旗など)を利用して行う通信、また、運搬(飛脚・伝書鳩など)を利用して行う通信しかありませんでした。
(2) 電気通信が誕生する
前述したように、摩擦起電機が発明された1600年代頃から人類が電気を制御できるようになりました。次第に、この「電気」を「通信」に利用しようという試みが始まったのです。
(以下、wikipediaの電信から引用)
「高速に伝送されるという電気の現象が知られるようになって、通信手段にも電気を利用するための実験が数多く行われるようになった。火花、静電気、化学変化、電気ショック、電磁気効果など、当時知られていた電気の性質がさまざまな人によって電気伝送通信に応用されようとした。」
1700年代は「電気通信」の試行錯誤の時代だったようです。ただし、当時は安定した電気を使えなかったので、実験も大変だったと思います。
それが、1800年、ボルタ電池の発明で、いつでもどこでも手軽に電気が使えるようになりました。この発明が電気通信技術開発に対する強力な原動力となりました。
1809年には、電気化学式(※)の電信機による通信実験(独:ゼンメリング)が行われています。
(※)電気化学式とは、送信側から送られた電気で、受信側のガラス管の中で電気分解による泡が出ることで信号をキャッチすることから名付けられました。電池内の化学反応とは関係ありません。
1837年にはモールス電信が開発され、有線式の電気通信として大きく発展していきました。
1854年、ペリー来日で贈られたモールス電信機による実験が我が国でも行われています。
そして、1869年10月23日、東京―横浜間で電信線の工事が始まり、これを記念して電信電話記念日が設定されました。
いよいよ日本にも有線電信サービスの時代が訪れたのでした。ちなみに、1890年には、有線電話サービスも始まっています。
このように「電気」と「通信」が出会い、「電気通信」として今日の繁栄を迎えることとなります。
【参考】
「telecommunications」は「電気通信」と訳しています。 teleは、「遠隔地」と言った意味で、communicationsは「通信」、すなわちtele-communicationsを直訳すると「遠隔通信」ですが、日本ではこれを、「電気通信」と訳しています。 遠隔通信を可能としたのは電気の功績・・・だからこそ「電気」通信なのだ、と言っているようです。よくよく考えてみると、なかなか意味深い翻訳だと思います。
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(3) 外国とも電信による通信がしたい ~電気通信と国際機関
1837年のモールス発明の頃からヨーロッパ諸国で電信の利用が急速に進んで行きました。
そして、1865年、異なる国家間で円滑な電信による通信を可能とするための国際調整機関としてITUの前身である万国電信連合(20か国)が設立されたのです。
電気通信の国際標準化は、ここからスタートしたのですね。ちなみに現在のITU加盟国は、何と193か国です。
【参考】
「電気」と「照明」 1802年 アーク灯(英:半ブリー・デービー)が発明され、電気の照明としての利用が始まろうとしていました。そして、電気が照明として本格的に利用されるようになったのは、1879年のエジソンの電球からでしょう。 電気と明かりは切っても切れない関係ですが、電気の照明としての利用は、通信としての利用よりも後の展開ですね。
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(4) 年表にしてみる
電気通信と電気照明の黎明期についてまとめました。
やはり1800年のボルタ電池の発明が新時代への幕開けになったようです。
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平成30(2018)年3月23日
(文筆) 一般財団法人 日本ITU協会 横田
(写真) 一般財団法人 日本ITU協会 後藤
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