1 ITUの沿革
1844年にモールスにより発明された電信は,その利便性により人々の通信手段として瞬く間に広まった。しかし,各国はそれぞれ異なったシステムを採用していたため,国際間の送信を行う際には国境で電信文を一旦解読し,これを受け渡しする必要があった。各国は相互協定を結ぶことにより,この問題の解決にあたったが,電信の利用が急ピッチで進んだため,ついに欧州20か国が集まり国際接続に関する国際的取り決めを議論する枠組み作りが始められるに至った。数か月の議論の後,1865年5月17日,パリにおいて国際電信協定が結ばれ,さらに,協定の実施・改定を引き続き実施していくために万国電信連合(International Telegraph Union)が設立された。これにより,万国電信連合は世界で最初の国際機関となった。
19世紀後半から20世紀初頭に電話,無線通信,ラジオ放送などの新しい通信・放送サービスや技術が発明・導入されるにつれ,国際電信連合(IRU:International Radio-
Telegraph Union)はその役割を拡大しつつ,国際電話諮問委員会(CCIF:International Telephone Consultative Committee,1924年)や国際電信諮問委員会(CCIT:International Telegraph Consultative Committee,1925年),国際無線諮問委員会(CCIR:International Radio Consultative Committee,1927年)などの委員会を作り,それぞれの分野における技術的検討や技術標準作りにあたることになった。
さらに,1932年のマドリッド会議では,1865年パリで創設された万国電信連合と,1906年ベルリンで創設された国際無線電信連合を合併し,名前も国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)とすることを決めた。第二次世界大戦後の1947年には,国際連合(United Nations)が作られたことを受け,国連の専門機関になることを決議すると共に,その本部を,それまでのスイスのベルンからジュネーブに移した。
その後,1956年にはCCITとCCIFは統合され国際電信電話諮問委員会(CCITT:International Telegraph and Telephone Consultative Committee)となった。さらに,1993年には,途上国援助の強化並びにグローバル化と電気通信事業の自由化という,通信の世界を取り巻く環境の変化に対応するために,CCITTやCCIRの組織を再編し,事務総局に加えて,ITU-R(無線通信部門),ITU-T(標準化部門),ITU-D(開発部門)の3部門体制とした。
1990年代後半から現代に至り,携帯電話やコンピュータと通信を融合したインターネット等の情報通信技術(ICT)の普及・発展は著しい。ITUでは,これらの技術革新や市場の変化に対応した国際標準や無線周波数の調整・分配のほか,サイバー空間のグローバル化に伴いサイバーセキュリティに対する議論も高まっている。
2 ITUの役割
ITU憲章の前文には,「電気通信の良好な運用により諸国民の間の平和的関係及び国際協力並びに経済的及び社会的発展を円滑にする目的」をもってこの協定を結ぶと記されている。この精神に則り,ITUでは,各種電気通信の改善と合理的利用のために国際協力を促進するとともに,電気通信分野における発展途上国への技術協力を促進することとしており,具体的には,下記の三つの大きな業務にまとめることができる。
① 通信技術の標準化
② 無線周波数スペクトラムの管理
③ 途上国への技術協力
3 各組織
ITUは,大きく分けて,電気通信標準化部門(ITU-T),無線通信部門(ITU-R),電気通信開発部門(ITU-D)と事務総局からなる。
ITU-R :ITU-Rは,静止衛星軌道の使用を含む,全ての無線通信サービスによる合理的,公平,効率的かつ経済的な無線周波数スペクトラムの使用を保証することにある。また,ITU-Rは,無線通信技術について研究し,無線通信を世界規模で標準化するとの見地から勧告を作成する。現在の無線通信部門の体制は事務局に加え,6の研究委員会(SG:Study Group)及び,戦略や作業の優先順位について検討するアドバイザリーグループ(RAG:Radiocommunication Advisory Group)などからなる。研究委員会体制は3~4年に一回開催される無線通信総会(RA:Radio Assembly)で必要に応じ見直される。
ITU-T: ITU-Tは,電気通信技術,運用及び料金について研究し,電気通信を世界規模で標準化するとの見地から勧告を作成する。現在の体制は事務局に加え,11の研究委員会及び戦略や作業の優先順位について検討するアドバイザリーグループ(TSAG:Telecommunication Standardization Advisory Group)からなる。 研究委員会体制は4年に一回開催される世界電気通信標準化総会(WTSA:World Telecommunication Standardization Assembly)で必要に応じ見直される。
ITU-D:ITU-Dは,技術協力活動を提案,組織化し,調整することにより途上国における電気通信開発を促進するとともに,人材育成,資金計画の策定等を行うプロジェクトを推進することにある。現在の体制は事務局に加え,2の研究委員会及び戦略や作業の優先順位について検討するアドバイザリーグループ(TDAG:Telecommunication Development Advisory Group)からなる。研究委員会体制は4年に一回開催される世界電気通信開発会議(WTDC:World Telecommunication Development Conference)で必要に応じ見直される。
4 ITUの組織図