福井大学准教授の庄司英一先生にフープラについてお話を伺いました。
写真1 福井大学キャンパス
「フープラ(Hoopra)」とは何でしょう。
Hoopは「輪」、raは「radio」のラ。要するに「ループ状のアンテナを有するラジオ」ということで命名しました、とのことです。
写真2 フープラ(2種類)
最大の特徴は、ラジオなのに「電池が不要」ということです。省エネや防災という切り口から見ると、とても魅力的です。
原理は昔からあるゲルマニウムラジオです。いわゆる枯れた技術ですが、信頼性のある技術、あるいは確立された技術、と言い換えることもできるでしょう。
空間に飛び交う電波(今回はAMラジオ用の電波:900KHz辺り)をアンテナで受信し、その電波の中から対象とする放送局の信号を同調・受信し、その受信信号の中から変調された音声信号を検波、併せてその音声信号エネルギーでクリスタルイヤホンを駆動させ音として再生する、という仕組みです。
ゲルマニウムラジオの典型的な回路は次のとおりです。
図1 ゲルマニウムラジオの回路図
材料さえ揃えば、誰にでもできそうな簡単な回路です。子供の工作教室などでもよく取り上げられているものです。
では、何故今「フープラ」なのでしょうか。
まず、省エネという時代の潮流の中で、過去の省エネ技術を掘り起した、ということは注目に値するものと思います。
環境発電(エネルギーハーベスティング)というキーワードが注目されている現在、何よりも早期の実用化が求められるところです。
「フープラ」はまさに実用化の最先端にあり、更にその技術的信頼性は絶大なものなのです。
また、「フープラ」は試作品とはいいながら、強固に作られています。頼もしさを感じるほどです。特にループ状のアンテナは丈夫で肩に提げて持ち歩くにも安心感があります。これは折り畳みもできるフレキシブルなアンテナです。
写真3 フープラ(アンテナを畳んだところ)
庄司先生の研究室に入ったとたん驚いたのは実験済みのフープラの数でした。カラフルなループアンテナがところ狭しとつり下げられていました。
アンテナ被覆材、アンテナコイルの形・構造・材料など様々な創意工夫の跡がこのアンテナ群から伺い知ることができました。完成品はたった一つですが、そこにたどり着くまでの長かった足取りにただただ脱帽です。
写真4 フープラの試作アンテナ群
写真5 庄司先生(左)
近年になって環境発電が注目されるようになった理由は、弱小な電気エネルギーを実用的に利用できる技術が生まれてきたからです。
この観点からゲルマニウムラジオを考えてみます。ゲルマニウムラジオの最大の欠点は、感度があまり良くないことです。電波のエネルギーを使って音として再生するためには、わずかな電波エネルギーを如何に効率よく受信し、如何に効率よく音に変換するか、ということです。
フープラの課題は、まさにこれです。
フープラの開発過程を順次追って行きたいと思います。
まず最初の課題は、大きさ、重さ、丈夫さなどを考慮しながら、効率のよいアンテナを作るということでした。これが数々の試作ループアンテナの工夫に他なりません。
次に回路のシンプルさ。メンテナンスなしで、耐用年数を長くするために、シンプルな構造にすることが大切なポイントでした。
使用する部品の選択も重要です。価格はもちろんのこと、入手のしやすさ、性能、耐久性などを考慮して作られています。
例えば検波器。もっとも原始的なものは鉱石ラジオといわれていたころの鉱石検波器でしょう。今はいろいろな種類の半導体を利用したものが出回っていますが、なるべく立ち上がり特性の良い(閾値の低い)ものということで、鉱石検波器ではなく、シリコンダイオードでもなく、ショットキーダイオードでもなく、「ゲルマニウムダイオード」が採用されました。今後、これより特性の良いダイオードが導入できれば、より高感度な受信が可能になります。
写真6 鉱石検波器(写真はウィキペディアから)
写真7 ゲルマニウムダイオード(写真はウィキペディアから)
こちらのグラフは、「探検ゲルマラジオ:浅瀬野氏」のHPから引用させていただきました。大変素晴らしい測定結果です。ありがとうございました。 出典:http://asaseno.aki.gs/germanium/index.html
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音の再生装置も重要です。フープラでは、クリスタルイヤホンが使われています。ダイナミック型は、インピーダンスが低くマッチング回路が必要ですが、クリスタル型は直接接続ができます。
写真8 クリスタルイヤホン
写真9 ダイナミックイヤホン
市販の部品を利用するということとで、以上のように昔からの標準的なゲルマニウムラジオの回路、部品となったようです。
しかし、ゲルマニウムラジオマニアの工夫は尽きることが無いようです。
アンテナの工夫、ダイオードの種類、整流回路の工夫(ブリッジ化や倍電圧整流化)、超高能率スピーカの活用など、様々なアイデアで高性能化を競っている方々がいるようです。
実際にこのフープラでラジオを聞いてみました。同調用のバリコンを回し、窓際に近づくと、きちんとした音声でラジオを受信することができました。屋外など受信場所を選ぶとより大きな音量で受信ができます。
写真10 大学校舎外で受信実験
防災という切り口から検討してみましょう。
最大の特徴である電源不要ということから、災害などによる停電時の情報源として多いに活躍してくれそうです。
実際、台風などで長時間停電となりテレビが見えなくなる、巨大地震で電池の入手が困難になりラジオや携帯電話による情報が収集できなくなる、ということもありました。
電源を確保するため手回し発電式のラジオや太陽電池式のラジオなどもあります。これらも運動エネルギーや太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換して利用する「エネルギーハーベスティング」の一種です。
確かに、選択は迷うところです。どちらも一長一短があります。
フープラは電波エネルギーを利用するという特徴とともに、課題点もあります。それは受信場所の問題です。
放送局の送信アンテナからの距離、周囲の環境などにより、受信感度は影響を受けます。フープラを防災拠点などで利用する場合には、あらかじめこれらの影響度合いをチェックしておく必要があります。
もし受信場所が放送局の送信アンテナに近い場所ですと、予想以上の音量で受信することができるでしょう。スピーカーも実用的に鳴らすことができるかも知れません。
フープラは非常時だけでなく、通常生活の中でも24時間エネルギー消費を気にすること無くラジオをつけっぱなしにすることができます。また、イヤホンの代わりにLEDを接続すれば、照明としても利用できます(ただし、実用的な明るさを得るには、複数のフープラが必要とのこと)。
一方、フープラの将来の発展形についても話が及びました。例えば①大型アンテナを防災施設などにあらかじめ組み込んでおけば、無電源ラジオとして永久に、そしてより実用的に利用できる、②ヘルメット組み込み型無電源ラジオとして利用できたら便利、③通常時はアンプ(電池式)付スピーカを接続して利用し、電池切れの時はイヤホンで聞く、などです。
写真11 フープラ(折りたたむところ)
写真12 フープラ(折りたたんだもの)
今後の展開が楽しみです。
以上、フープラについて概要をご紹介しました。
庄司先生の研究室では、この他に「ものづくり」をテーマに様々な実用化に向けた装置の試作等を行っています。人工筋肉、楽器演奏ロボット、高速3Dプリンタなどなど・・・興味は尽きるところがありません。
専門は素材科学とのことでしたが、様々なユニークなテーマに熱心に取り組んでいらっしゃるご様子。「創造力への挑戦」をモットーに、庄司先生から発射されるエネルギーレベルの高さは感動的です。
写真13 研究室前の掲示板
写真14 3Dプリンター
今後のますますの御活躍をお祈り致します。
先生の試作品に対する厳格な考え方には共感しました。バラック的な構造ではだめ、実用化に耐えうるきちんとした造りでなくてはいけない、という考え方です。熱く語る言葉の端々にこの思いを感じ、先生の研究に対する姿勢が現われていました。 ちなみに、先生には話し上手な面と、聞き上手な面が併存していらっしゃるとつくづく感じました。熱く語る一方、私たちのつたない提案などにもきちんと耳を傾けていただける、その真摯なご対応に改めて感動した次第です。 |
(追伸)H28.6.6 庄司先生から新たなフープラに関する情報を頂戴しました。 「災害時のラジオからの情報の重要性や活用性、防災ラジオとして無電源ラジオの重要性」などを紹介する論文(英文)です。こちらからご覧ください。 |
(一般財団法人日本ITU協会 横田)
HOOPRA 説明資料(1)
HOOPRA 説明資料(2)
HOOPRA 説明資料(3)
以上
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