1 環境発電(エネルギーハーベスティング)について
(1) 環境発電とは
環境発電は、身の回りにあるわずかなエネルギーを電力に変換する発電技術です。エネルギー(エナジー)ハーベスティング(ハーベスト)とも言われています。
このエネルギー源は、ごく身近にある光や振動、熱、風などであり、これを電力に変換し、活用します。
この発電原理は昔から知られていましたが、室内などではわずかな電力しか取得できないことから、なかなか実用化に結び付かなかったのが実体です。
ところが、近年、超低消費電力で動作するデバイス等の開発が進み、この微小電力の活用の道が開かれてきました。
(2) 進展する超低消費電力デバイス技術
例えば、半導体メモリ。電力供給がなくてもデータを記憶し続ける不揮発メモリを使い、超低消費電力のシステム開発が可能となってきました。ノーマリーオフコンピューティング技術等と組み合わせることにより、その実力が発揮されます。
(3) 応用分野
太陽電池によって電卓や腕時計を動かすことは、既に実用化されている例です。
近年、スイッチの振動エネルギーで得る電力を利用したコードレス照明スイッチやトイレの水流エネルギーを利用した小規模照明などにも環境発電技術が活用されています。
この他、温度、湿度、照度などのセンサー類、ウエアラブル(医療)機器などの電源として環境発電を活用しようとする動きが出てきています。
2 「電波」にスポット
環境発電と言っても、大変広い概念です。今回のユニーク技術でご紹介するのは、「電波」と呼ばれる帯域(3THz以下の周波数)の電磁波を利用した環境発電です。空間を飛び交う電波をエネルギー源とする研究を進めている2人の先生のところへ出向きお話を伺いました。
3 電波による発電
電波の存在を証明したのはヘルツです。1888年、今から130年ほど前のことです。
(ヘルツの実験当時、既に電気は使われていました。有線電信機(モールス1836年)にも、電球(エジソン1879年)にも、電気は使われていました。)
ヘルツの実験の概要は図1のとおりです。
左側は送信部で、高圧発生コイルに誘起された高電圧の電気が、ギャップ部分で放電し電波が発生します。右側は受信部です。
図1 ヘルツの電磁波実験
今回、この図で注目するところは、右側の受信部です。
ヘルツは、受信コイルの両端のギャップ部分で誘導された電気を放電発光させ、目で電波の存在を確認しました。
今回の環境発電の原理は、これと同じで、放電発光させる代わりに、整流回路を設けて直流電源を作り出します。
昨年度(平成26年度)、当協会のビジュアルレポート(#026)で、宇宙太陽発電所に関して京都大学の篠原先生に取材を行いました。
この宇宙発電所構想(図2)では、宇宙空間に設置した太陽電池で発電した電気をマイクロ波に変換し、アンテナで地上に向けて送り出します。地上では、このマイクロ波をレクテナ(RECtifying anTENNA)で受信し、電気に変換します。
レクテナとは「電波から直流電流」を作る装置のことで、アンテナと整流回路で構成されています。
図2 宇宙太陽発電所(京都大学HPから)
ヘルツの電磁波実験では、コイルで得られた電気エネルギーを放電させましたが、レクテナでは、得られた電力エネルギーをバッテリーに蓄えたり、照明に利用したりします。
レクテナに関する課題は、如何に効率よくアンテナで電波を受け、如何に効率よく電気に変換するか、ということです。
通常レクテナの変換効率は、80%程度に高めることが可能と言われています。大変変換効率の良い技術です。
可視光も電磁波ですから、同様の変換方法を使えば、現在の太陽電池(変換効率20%程度)よりずっと高効率の発電ができると言われています。ナノアンテナなどとして、現在精力的に研究が進められています。
ところで、今回のテーマは、電磁波の中でも低い周波数(波長の長い)である「電波」の領域をターゲットとしています。
具体的には、AMラジオ帯域(500KHz周辺)と地上デジタル放送帯域(600MHz周辺)の電波について取り上げております。
初めに、福井大学の庄司先生にお話を伺いました。
こちらでは、フープラと命名された無電源AMラジオを試作されていました。既に実用的な形で製作されており、防災面や省エネ面から考えても大変興味深く感じました。
詳細については、資料1のレポートをご覧ください。
次に、金沢工業大学の野口先生の研究室にお邪魔しました。
こちらでは、地上デジタル放送の電波をエネルギー源として活用するためレクテナの研究が進められていました。
特に各種センサーネットワークへの活用を視野に、レクテナとセンサーの組み合わせに関するパワーマネージメント設計についても研究が進められ、実用化も間近という感触でした。
詳細については、資料2のレポートをご覧ください。
このように環境発電技術の実用化を目指す研究を目の当たりにし、いよいよ実生活の中に広く取り入れられていく段階なのだ、ということを強く感じました。
総務省通信白書(2015年度)では、2020年頃にはIoT(Internet of Things)デバイスは530億個普及し、市場規模は1.7兆ドルになると予想されています(図3)。
このIoTデバイスに搭載されるセンサーの小型化、軽量化、低消費電力化が進展するにつれ、メンテナンスフリーを実現する環境発電技術の重要性はますます増大してくるものと確信します。
当分、環境発電技術からは、目が離せない状況になりそうです。
図3 市場予測(総務省資料から)
ここで、資料提供やヒアリングのご協力をいただきました皆様に厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。
(一般財団法人 日本ITU協会 横田)
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