ITU全権委員会議報告(ITUジャーナル2015年4月号)
2015. 5. 1
日本ITU協会 専務理事 田中和彦
昨年12月7日から10日までの4日間、カタールのドーハで開催されたITU テレコムワールドの模様を写真を中心にレポートします。
本件は当協会第36回情報通信研究会、ITUジャーナル2015年4月号にて報告いたしましたが、本レポートにてイベントや参加者の雰囲気などをご覧下さい。(写真はクリックで拡大します)
従来、ITUテレコムワールドはジュネーブで開催されていましたが、最近はドバイ(2012年)、バンコック(2013年)で開催され、「技術のオリンピック」として各国が技術の最先端をデモンストレーションする場から、展示に加え、セッション、フォーラムなどで最新の技術と課題や方向性を議論する場となっています。
今回は主催者によれば205名(52ヶ国)による講演、3,500名が参加しました。
初日は日曜日、という金曜日・土曜日が週末のイスラム教国らしい日程で、盛大なオープニングセレモニーが行われました。
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オープニングセレモニー会場 |
開会に当たってはコーランが吟じられました。
VIP着席に多数の取材陣が | 未来を象徴するオブジェ | Ooredoo会長による開会挨拶 | コーランの斉唱 (ビデオ wmv / mp4) |
会場のQNCCは、ドーハの郊外に作られた巨大、かつ、近代的な建物でしたが、周辺は荒野でこれから開発される地区という印象でした。
荒れ地の向こうに会場が | バオバブの木のデザインの外装 | 六本木ヒルズでも見たような | 途中の医療研究センタにもバナーが |
約50のセッションが4日間に渡り同時並行で開催されました。
第1日目 | 第2日目 | 第3日目 | 第4日目 |
トピックスは多岐に渡り、一言で表現するのは大変に難しいのですが、傾向を推測するために、ITUのホームページに掲載された各セッションの概要レポートのキーワードを集計してみました。
spectrum | : | 101 | education | : | 21 | |
broadband | : | 99 | health | : | 15 | |
Internet | : | 78 | disaster | : | 13 | |
LTE | : | 17 | ||||
IoT | : | 9 | : | 99 | ||
OTT | : | 6 | Ooredoo | : | 97 | |
5G | : | 6 | NOKIA | : | 9 | |
APP | : | 2 | Huawei | : | 7 |
これを見ると、最大の関心は、爆発するモバイル系インターネットトラフィックをいかにさばくかで、そのための周波数(スペクトラム)の配分が重要な課題となっています。また、5Gへの期待、IoTへの関心、OTTへの対応も引き続き大きな話題となっていました。
5Gの「実現技術」「開発状況」などの議論ではなく、5Gによって実現されるサービス、利用形態、期待に関する議論でした。「5Gの世界はIoTが一般化する」「それによってトラフィックが更に増大する」という意見が示されていました。
5Gロードマップ | 司会は情報通信国際戦略局森次長 |
「公共業務(緊急業務)の通信」をLTEで実現する議論で「コストダウンが図れる」が「真にクリチカルな業務には専用システムが望ましい」という主張でした。
LTEの活用でコストダウンを | 会場からは熱心な質問が |
アフリカ諸国における取組紹介が中心で「IoTではアドレスが不足する」「教育や人材育成も含めたv4からv6へのシフトに積極的に取り組んでいる」との報告でした。
次の段階はIPv6の導入 | アフリカでのIPv6普及状況 |
デファクト標準化団体 TeleManagement Forumからの講演で、各国のキャリアやベンダによるパートナリング、システムの効率化などの状況が紹介されました。同団体のネットワークマネジメントに関する規格はITU標準に採用されています。
TM Forumからの講演者 | 各社の連携状況 |
途上国においてその発展のためにビッグデータをどう生かし得るかという議論で、例えば携帯電話のCDR(Call Detail Records)の分析により人口分布、災害時行動、貧富状況等が推計・測定出来るとの事例が報告されました。また、貧しい地域ほど着信が多く、富める地域では発信が多い傾向があるとの事例の紹介もありました。
貧富状況推定例 | CDRによる人口推定例 |
(6) “Make Your Country an ICT Star : ICT Surveys, SIDS and Vanuatu“
南太平洋の小島嶼開発途上国(Small Island Developing States)であるバヌアツにおける取組の紹介で、同国では独特の言語の消滅を防ぐためにデジタル化を進めていること、ICTリテラシー向上のために学校にタブレットを導入していることなどが報告されました。
バヌアツの取組を紹介 | 急速に伸びているサービスは |
ITUでは、若い社会活動家、起業家、研究者に対してワークショップ開催、メンターによる指導、優れた案件への表彰などの活動を行っています。今回は、8件が表彰されました。
今回の受賞者 |
今回と前回の受賞例を紹介します。
考案者はウガンダ出身で南アフリカの大学生で、同国では50以上の部族が固有の言語・文化を持っているが殆どがデジタル化されておらず、失われる危険にさらされているという問題意識が発想の元とのこと。それらの固有の言語・文化をデジタル化して残そうというプロジェクトですが、現在は構想の実現に取組中との報告でした。
今回受賞者 | 文化財が火災で焼失 |
前回、受賞した案件で、考案者はインド、ペルー在住経験があり、グローバルな健康に関する地理学学士号を持ち、米国ワシントン州在住です。視覚化した地図情報により健康・衛生・福祉向上を図る複数のプロジェクトを実施し成功を収めているとの報告でした。
前回受賞者 | ナイジェリアでの小児麻痺感染経緯 |
本プログラムでは、既に完成し成功した案件を選ぶというよりは、構想段階であっても、社会的な意味の高い案件を支援し、フォローしているとの印象を持ちました。これまで、途上国出身者による案件が中心と受け止めていましたが、先進国出身者や先進国での研究開発成果を取り入れた案件もあり、日本からの参加も呼びかけて行きたいと強く感じました。
展示会は、商用展示会に比べると静かな印象です。
展示会場内部 |
主催者のITUによる展示に加え、特に、アフリカ諸国による展示が目立ちました。
ITU Saving Livesパビリオン | 次回開催地ブダペスト |
ルワンダ | ジンバブエ | チャド | ケニア |
中国 | マレーシア |
企業による展示は、開催場所である中東のキャリア、ヨーロッパ各国と中国の企業による展示が目立っていました。
ノキア | ローデ・シュワルツ |
ファーウェイ | セキュリティゲート | オーレドー |
残念ながら、今回は、日本国、日本企業による展示、パビリオンはなく、寂しい思いでした。
次回は2015年10月12日(月)~15日(木)にハンガリーのブダペストで開催予定です。4年ぶりのヨーロッパでの開催でもありますので、より多くの皆様と参加できることを願っています。
ジャオ新事務総局長と筆者 |
カタールは人口216万人、面積1.2万km2で、ほぼ岐阜県と同じです。国民当たりGDPは約10万ドルで非常に高いですが、カタール国籍の住民は人口の13%に過ぎず外国籍の住民がほとんどを占めます。
カタール国旗 | 所在位置 |
ドーハは、出発時に成田空港で搭乗便の客室乗務員から「何もありませんよ」と言われて驚いたのですが、その通りの街でした。鉄道などの公共交通も無く、正規のタクシーも非常に少なく、走っているのはいわゆる白タクで、会場に行くためには毎日運賃の交渉が必要でした。
市内は
古い街並みが残る一方で、近代的な高層ビルも建ち並び、夕日の写真には尖塔に加え建設用のクレーンがたくさん写っており、これからの発展を強く感じました。
アルジャジーラ本社 | 新旧が混在する市内風景 | ドーハ湾の夕日 | 高層ビル群夜景 |
ドーハの風景をパノラマ写真でご紹介します。(各リンクをクリックすると各画素数の写真が開きます)
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